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緩歩動物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

緩歩動物(かんぽどうぶつ)は、緩歩動物門に属する動物の総称である。4対8脚のずんぐりとした脚でゆっくり歩く姿から緩歩動物、また形がクマに似ていることからクマムシ(英名はwater bears)と呼ばれている。また、以下に述べるように非常に強い耐久性を持つことからチョウメイムシ(長命虫)と言われたこともある。

体長は50マイクロメートルから1.7ミリメートル。熱帯から極地方、超深海底から高山、温泉の中まで、海洋・陸水・陸上のほとんどありとあらゆる環境に生息する。堆積物中の有機物に富む液体や、動物や植物の体液(細胞液)を吸入して食物としている。

およそ750種以上(うち海産のものは150種あまり)が知られている。

特徴
・体節制は不明確。基本的には頭部1環節と胴体4環節からなり、キチン質の厚いクチクラで覆われている。
・4対の脚には関節がなく、先端には基本的に4-10本の爪、または粘着性の円盤状組織が備わっている。
・体腔は生殖腺のまわりに限られる。
・多くの種では雌雄異体だが、圧倒的に雌が多い。腸の背側に不対の卵巣又は精巣がある。
・幼生期はなく、脱皮を繰り返して成長する。
・呼吸器系、循環器系はない。酸素、二酸化炭素の交換は、透過性のクチクラを通じて体表から直接行う。
・神経系ははしご状。通常、1対の眼点と、脳、2本の縦走神経によって結合された5個の腹側神経節を持つ。
・口から胃、直腸からなる消化器系を持つ。排出物は顆粒状に蓄積され、脱皮の際にクチクラと一緒に捨てられる。

生態
陸上性の種の多くは蘚苔類などの隙間におり、半ば水中的な環境で生活している。樹上や枝先のコケなどにもすんでいる。これらの乾燥しやすい環境のものは、乾燥時には後述のクリプトビオシスの状態で耐え、水分が得られたときのみ生活していると考えられる。

水中では水草や藻類の表面を這い回って生活するものがおり、海産の種では間隙性の種も知られる。遊泳力はない。

クリプトビオシス
  詳細は「クリプトビオシス」を参照
クリプトビオシスは無代謝の休眠状態のこと。緩歩動物はクリプトビオシスによって環境に対する絶大な抵抗力を持つ。周囲が乾燥してくると体を縮めて樽状になり、代謝をほぼ止めて乾眠(かんみん)と呼ばれるクリプトビオシスの状態の一種に入る。樽(tun)と呼ばれる乾眠個体は、下記のような過酷な条件にさらされた後も、水を与えれば再び動き回ることができる。ただしこれは乾眠できる種が乾眠している時に限ることであって、全てのクマムシ類が常にこうした能力を持つわけではない。さらに動き回ることができるというだけであって、その後通常の生活に戻れるかどうかは考慮されていないことに注意が必要である。

乾眠状態には瞬間的になれるわけではなく、十数時間をかけてゆっくりと乾燥させなければあっけなく死んでしまう。乾燥状態になると、体内のグルコースをトレハロースに作り変えて極限状態に備える。水分がトレハロースに置き換わっていくと、体液のマクロな粘度は大きくなるがミクロな流動性は失われず、生物の体組織を構成する炭水化合物が構造を破壊されること無く組織の縮退を行い細胞内の結合水だけを残して水和水や遊離水が全て取り除かれると酸素の代謝も止まり、完全な休眠状態になる。
・乾燥 : 通常は体重の85%をしめる水分を0.05%まで減らし、極度の乾燥状態にも耐える。
・温度 : 151℃の高温から、ほぼ絶対零度(0.0075ケルビン)の極低温まで耐える。
・圧力 : 真空から75,000気圧の高圧まで耐える。
・放射線 : 高線量の紫外線、X線等の放射線に耐える。X線の致死線量は57万レントゲン。(ヒトの致死線量は500レントゲン)
この現象が、「一旦死んだものが蘇生している」のか、それとも「死んでいるように見える」だけなのかについて、長い論争があった。現在ではこのような状態を、クリプトビオシス(cryptobiosis '隠された生命活動'の意)と呼ぶようになり、「死んでいるように見える」だけであることが分かっている。乾眠(anhydrobiosis)はクリプトビオシスの一例である。他にも線虫、ワムシ、アルテミア(シーモンキー)、ネムリユスリカなどがクリプトビオシスを示すことが知られている。

なお、クマムシはこの状態で長期間生存することができるとする記述がある。例えば、「博物館の苔の標本の中にいたクマムシの乾眠個体が、120年後に水を与えられて蘇生したという記録もある。」など。教科書や専門書でも、そのように書いているものもある。ただし、この現象は実験的に実証されているわけではなく、学術論文にも相当するものはない。類似の記録で、120年を経た標本にて12日後(これは異常に長い)に1匹だけ肢が震えるように伸び縮みしたことを観察したものはあるものの、サンプルがこの後に完全に生き返ったのかどうかの情報はない。通常の条件で樽の状態から蘇生し動き回った記録としては、現在のところ10年を超えるものはない。また、蘇生の可否は樽の保存条件に依存し、冷凍したり無酸素状態にしたりすると保存期間が延びることがわかっている。また、宇宙空間に直接さらされても10日間生存していたことが発見され、動物では初めての発見となった。

分類
緩歩動物は以前は節足動物に含まれていたこともあり、また、舌形動物 (Pentastomida) 、有爪動物 (Onychophora) とともに側節足動物 (Pararthropoda) と呼ばれていたこともあったが、現在では3綱5目15科からなる独立した門に分類されている。
・異クマムシ綱 Heterotardigrada : 体前端に突起を持ち、体表の付属物や爪の形態が変化に富む。
 ・節クマムシ目 Arthrotardigrada
 ・トゲクマムシ目 Echiniscoidea
・中クマムシ綱 Mesotardigrada : 長崎県・雲仙温泉で発見され1937年に記載されたオンセンクマムシ1種のみからなる。しかし模式標本が残されておらず、その後採集記録がないことから存在が疑問視されている。
・真クマムシ綱 Eutardigrada : 体前端に突起を持たず、体表も平滑な種が多い。
 ・近爪目(ヨリヅメ目) Parachela
 ・遠爪目(ハナレヅメ目) Apochela
緩歩動物の最初の化石は、カンブリア紀の岩石から見つかっている。系統発生的には、節足動物が環形動物から分岐したあとで、節足動物系統から有爪動物らと共に分岐したとされている。

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